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元谷●いつも色々とご一緒させていただいたり、昼食会でお会いしたりしたんですけ ど、お送りしている『アップルタウン』はお読みですか。
植草●はい、ありがとうございます。
元谷●私は植草さんの書かれたものとかお話をお聞きしまして、非常に私と近いと思っ てます。今の閉塞社会というのは、バブルの崩壊から始まって、冷戦のときまでは、 日本が経済成長を遂げることはアメリカにとっても利益だったけれども、冷戦が終結 したらアメリカの戦略って、やっぱり変わるじゃないですか。それに合わせて日本も 国家戦略をもう一回きちんと立てて、それに対応していかないと、冷戦時代の漁夫の 利を得て経済大国となった日本のため込んだ金融資産を、どう取り返そうかというこ とで、クリントンがアメリカの国家金融戦略を発動して、日本の強みは間接金融にあ り、その間接金融の強みをそぐためにどうしたらいいかと考えて発動したのがBIS 規制であって、見事にそれにはまって、今こういう状況となったと思うんです。
植草●今、お話しされたように、国家としての政策とか、国家としての戦略というの は非常に重要で、現在の日本はそういう視点が欠落してしまってると思うんですね。
 まず、アメリカの対日政策、アメリカが理念を追求して、一つの真理を追究すると いう部分は確かにあると思いますから、それなりに国家をつくる際の考え方における 正当性みたいなものを追求していくために、それはそれで尊重する必要はあると思い ます。一方で、国益とか、国策とかいうことを踏まえた外交上の戦略とか、対日政策 というのがあって。
 戦後で言えば、最初アメリカは、日本が再び力を持たないようにというのが外交の 基本で、日本を弱体化させ、産業の振興が進まないようにして、軍事力を排除した。 これが終戦直後の対日政策ですけれども、そうした状況の中で、ソビエトが核兵器を 開発したことが大きな衝撃であり、脅威になりました。ここから冷戦は始まり、これ をきっかけにアメリカの対日政策は、基本的に百八十度転換して、日本にもう一度軍 事力を持たせ、日本の産業復興を逆に今度は支援する立場をとった。これが非常に長 く続いたと思いますが、それがもう一度大きな転機を迎えたのは、やはり冷戦終結と いうことだと思うんです。
 冷戦によっていわゆる資本主義対社会主義というイデオロギーの対立の時代が終わっ て、どういう時代が来るのかいろんな議論がありましたけれども、九三年の七月にサ ミュエル・ハンチントンが「文明の衝突」という論文を『フォーリン・アフェアーズ』 に発表していますが、この論文を私なりに解釈すると、二つ重要な指摘をしていて、 一つはイデオロギー、社会主義対資本主義の対立が終わった後の時代は、今度は文明 と文明の対立の時代になる、そしてもう一つ実は重要な指摘をしていて、それは冷戦 の時代は軍事力の競争の時代だったけれども、ポスト冷戦の時代はいわゆる経済力の 競争の時代に変わるんだと、こういう認識なんですね。
 特に九〇年代に入って、重要と考えられる産業分野が幾つか出てくるわけですが、 一つはやはりITを中心とした情報通信ですよね。それからそれにも関連しますが、 知的所有権という分野、それからバイオテクノロジー、もう一つが金融産業というこ とで。ナノテクノロジーも最近は入ってくると思いますけれども。
 冷戦が終わった後に、最初に発足した政権というのはクリントン政権で、クリント ン政権はまさに、サミエル・ハンチントン論文をベースにして、ITやバイオテクノ ロジーを中心に経済力の強化を着々と進めました。
元谷●伝統的に民主党政権というのはユダヤの支持をたくさん受けている政党でもあっ て、クリントンはそういう意味で、ユダヤが好む、金融をもって世界支配というか、 金融支配をやろうということで、九七年のアジアの通貨危機などもまさに、そういう 側面があるかなと私は思ってるんですけども。そういうことがアメリカにとっては当 然、東西冷戦が終わって、血と汗と金を突っ込んで勝利した、いわば戦勝国ですよ。 戦勝国アメリカにとっては、当然、その間ぬくぬくと経済成長を遂げたアジアの諸国、 特に日本の一千数百兆と言われる金融資産は、日本人はもうけることはうまいけど、 それを使わないでため込む習性があるということで、安心してため込ませたけれども、 冷戦が終わったから、さあ、そろそろ返してくださいよと始まったのが、クリントン のユダヤの戦略に基づく国家金融戦略だと思います。
 それに気づいて、日本はこのあたりで、防衛戦に入っていかないといけないのに、 小泉さんのやってることは、むしろアメリカの政策に便乗したような形でやっていて、 特に竹中さんの政策というのは、まさしくアメリカにとって利することはあるとして も、日本の国益から考えると、今、このような政策でいいのかなと思う。私は非常に 不安を持っている一人なのですが、竹中ショックと言われる現象、これはいかがです か。
植草●小泉政権が発足するときから、実は竹中さんの主張と私の主張は全面的に対立 してたんですね。
元谷●対極でしたよね。全くそういう意味では反対。
植草●どこが一番違ったかというと、金融処理のやり方については、非常に近いもの がありますけれども、一番の違いはこれは一種の外科的手術で、患部を摘出する手術 なので、私の主張は手術をするのであれば、栄養と睡眠を与えてまず体力つけて、輸 血とか点滴とか麻酔とか施して手術をしないと、なかなか手術は成功しないというこ とです。
ですから、順序として言えば、まず景気回復に全力を注いで、回復を進める中で改 革をやる。回復なくして改革なしなんですね。
元谷●だから、今やってることは、いわゆる不良債権の処理をしないと景気が回復し ないと言ってるけど、反対に景気の回復をせずに、不良債権を処理したのではデフレ スパイラルを招き、さらに景気を悪化させると…。サッチャーの政策とかレーガンの政策に見られる ように、今は公共投資よりも、大幅規制緩和と減税なんですよ。減税も、広くする減 税じゃなくて政策減税。
 私は常々、不動産の政策減税をやるべきだという持論を、エッセイには書かせてい ただいてるのです。例えば保有にかかわる固定資産税を減税しちゃうと地方の財政が もたないと、こうなるでしょう。ところが、地方の財政がもたなければ、国が補助金 を出したっていいじゃないかと思います。
 やはり今あがりすぎた固定資産税を軽減しないと、不動産に魅力がない。買うとき も登録免許税に不動産取得税・建物消費税・事業所税がかかって、持っていれば大変 な固定資産税がかかり、年々地価が下がっていく中でも固定資産税が上がっていく逓 増方式で地価が下がる情勢になってきても、反対に税金が増えていくようなこととなっ た。これでは不動産の魅力がないですからますます地価が下落する。地価が下落すれ ば、当然持ってる会社の資産内容が悪くなり、株価も下がる。だから、土地が下がり 株が下がれば、銀行はそれを担保に貸しているお金が不良債権となる。
 不良債権を処理しようとして売りなさいと言えばまた地価が下がる。株式も株が下 がっているときに株を売って持ち合いを解消しろと言えばまた下がる。だからみんな 売りなさいと言えば、また下がる。正反対なことを絶えずやってる。私はこの大蔵省 というか財務省の考え方って少し愚かではないかと思ってるんです。
 真っ当にその辺をきちっと見られていらっしゃるのが植草さんと、私はいつも思っ ているのですが。



非を認めない、ごまかす、自画自賛する

植草●先ほどのお話で言うと、去年の三月に、少人数の勉強会があって、私がそのと き発表者で、金融問題も大事だけれども、景気回復を実現しない限り金融問題の解決 はないということを言ったのですが、竹中さんは逆に、金融問題が解決しない限り景 気回復はないと、ですから正反対なんですね。その日の夜に竹中さんがテレビに出ら れて、世の中には、景気回復をしなければ、金融問題が解決しないという意見を言う 人がいるけれども、これはもう完全に間違いだということを確認してから、話を始め たいと言われたんです。
元谷●ばかじゃないですか。
植草●結局、現実に起きていることは、景気回復を放棄して金融問題の処理とかある いは財政再建だけ進めた結果何が起こったかというと、株が下がって、地価が下がっ て、不良債権は増大して、不良債権問題そのものはどんどん拡大しているんですね。 この中でさらに不況を放置して、不良債権の処理だけ進めるというのは、結局、患者 にまず断食をやらせて、それから血を抜き取って、輸血も麻酔も点滴もしないで執刀 するようなものですから、これはもう、ほとんど殺人に近いものになっちゃうと思う んですね。
 ただ問題は、小泉政権もそうですし、竹中さんもそうですし、財務省もそうなんで すが、これを三原則と言っていますが、まず非を認めない。それからごまかすという のがあるんですね。例えば、三十兆実際超えてるのに、見かけだけ三十兆にするとか ですね。三つめは、自画自賛する。非を認めない、ごまかす、自画自賛する。
元谷●それと常に、植草さんがおっしゃる足して二で割るということをやる。
植草●最終的にはそうなんですね。
元谷●小泉さんは足して二で割る、結局知的確信がないから、二つの意見があったら 足して二で割るようなことをやっちゃうじゃないですか。
植草●だから、小泉さんの人生哲学とか、あるいは経営理念のようなものは、これは 多分国民は賛同する人は多いと思うんですね。厳しさに耐えていこうとか。
元谷●単純に考えると、そういう気になるんだけれど、もうちょっと深く考えると、 彼はほんとうに自分の考えというのは持っていなくて、どちらかというと大蔵省の考 え方に振り回されて…。私は現下の不況は大蔵省不況と言っていいんじゃないかと。 もともと橋本大蔵大臣のときの不動産融資の総量規制から始まった、一連の、いわば 不動産いじめとも言えるバブルの急速崩壊を促した。
 確かにバブルはけしからない。土地の値段がどんどん上がっていくことは評価でき ないかもしれないけれども、それ以上に、上がった地価をもとの値段まで下げたらい いなんて極論に走って、大蔵省は不動産融資総量規制をやった。日銀も金利を棒上げ して、国土庁も監視区域をつくって強制的に地価を抑え込むことまでやった。そして 固定資産税にプラスして地価税をもうけた。もうトリプルどころか、マルチプルいじ めをやっちゃったわけです。
 あれでは、私は大変なことになるだろうと思って、持ってる資産を全部売っちゃっ たんです。私はその辺を先読みしたおかげで今も笑ってしゃべってるんですけど。全 部売って、バブルの利益でジェット機を買って、その償却赤字と損益通算しました。 そして今度は、ジェット機のレバジットリースの戻りの特別利益を利用してホテルを 一万室つくろうと計画しました。金利は安いわ、建築費は安いわ、バブルの利益、特 別利益が戻ってくるわで、これを利用しない手はないということで、私は今は百年に 一度のチャンスのときと思っています。ただ、私の会社はいいとしても、このままで 日本はいいはずがありません。大蔵省は、何でもかんでも日銀に責任をとらすように して、自分達のやることには間違いはないと。バブルの処理も正しかったと、その非 を認めていない。すぐに処理すれば被害がもっと小さくて済んだのが、そのときやる と責任者が生まれる。そこで五年たてば時効となり、また地価も上がるだろうと先送 りしてしまったのです。
 さらに今はほんとうのことを言うと大変だからと言って、覆い隠す。私はもう既に、 日本の銀行のすべてが債務超過と言ってもいい状態に陥ってると認識してます。もう ここはドラスティックな政策を打ち出し景気を刺激して、経済をよくして、それで税 収を増やす等、何かしていかないと、ただ処理するという緊縮策をやっている限りは、 ますますらせん階段を滑り落ちていくだけです。アメリカもここまで日本を弱体化さ せるつもりはなかったのに、彼らの思う以上に、日本は自虐的に弱体化していって、 最後は日本発世界金融恐慌の引き金を引いてしまうことになることを恐れている状況 です。
今回の日本の不況は、アメリカにとっても心配になってきています。日本を弱体化 したいと思っているうちに、本当にそれが引き金で世界恐慌になってしまうじゃない かと。
 先日李登輝さんとの対談で彼は、日本の景気をよくするのは簡単だと言っていまし た。「鳥小屋と言われていて台湾よりも狭い。日本の住まいを倍にすれば、大きなテ レビも大きな家電商品も家具もみんな売れるじゃないか」とおっしゃっていました。 日本はお金を持っているのに、もうけたお金を使わずに貯金している。それが今、ペ イオフでどうなるとか、国債を買って国債バブルが崩壊してどうなるとか、こんなこ とを言っていますが、アメリカはもうけた以上にお金を使う、せめて日本はもうけた 分使って、その豊かさを実感する。その豊かさを実感するには大きな住まいに住む。 そのためには、大きな住まいに住みやすい税制に改める。あわせて日本は法人で認め ているような建物償却が個人の建物には認めていません。アメリカは自分の家を買っ ても、償却を認めてます。なぜなら形あるものは必ず壊れるし、日が経てば傷むし朽 ちていくのは常識だからです。ところが、日本の税制は個人の持つ住まいはいつまで も取得原価なんです。アメリカですと、自宅ともう一軒の別荘までは償却を認めてま す。これを早く個人の住まいにも償却を認めるようにする。
 それからいわゆる租税特別措置法によって小さな家を持つ小規模な宅地を持つ人に だけ三分の一・六分の一に固定資産税を減額し、それによって不満を抑え込んでいる ような政策を改めて、すべての固定資産税を大幅に減税する。地方財政が成り立たな い場合は、国税でもって補助します。それによって住宅需要が興り、景気が回復すれ ば税の自然増収で回収できることなので、まず景気を回復するほうに力をいれない限 り、日本の景気は奈落の底に落ちます。
 だから、もうこの辺で、財務省は自分の非を認めて、今までのように日銀だけのせ いにして銀行の保有株を買い取らせたり、RCCに不良債権を簿価で買い取らせるな どとんでもないことを言っていますが、非常にモラルハザードを問われるところでは ないかと思います。



米国に対する 日本企業の払い下げ

植草●私は九一年の秋に中央公論に『バブル崩壊後日本経済の行方』という論文を出 して、それで次の年、それをもとに本を書いてるんですが、もともとは「漂流する日 本経済に明日はあるか」というのが私のつけた題ですが、結局日本のバブルの生成と 崩壊の過程に相当アメリカの政策に翻弄されている部分があるんですね。
 アメリカは八〇年代前半にレーガノミックスという経済政策を行って、双子の赤字、 高金利・ドル高で、二百五十円を超すようなドル高になって、保護主義が非常に強く なったので、ドルを下げなければならなくなりました。これがプラザ合意で、ドルが 急落して、円高になった結果、日本では金利が低下して、株高・地価上昇になりまし た。つまり、日本の力がどんどん強くなるんですね。
 八八年の十一月に大統領選挙があって、これでブッシュさんが当選しますが、ブッ シュさんは選挙キャンペーン中からストロングアメリカ、ストロングダラーという言 い方を始めて、アメリカの力が回復するんだと言ってました。日本が強くなった背景 というのはよく調べてみると、円高・金利低下・株高なので、逆に円安・金利上昇・ 株安にしてやれば、日本は弱体化する。そういう考えがあって、結局これが八八年以 降、為替が今度は百六十円に向かって円安が進んで、金利の急上昇が始まり、株価の 暴落が始まっていくわけですね。
 ですから、私は八九年の二月の社内会議で、「認識されてない重大な危機」という テーマで発表しました。それが今は円高・金利低下・株高で、証券会社は我が世に春 だけど、それが逆流する時期がもう近づいてるので、それに備えるべきだということ ですね。それが一年後にそういう状況になったので、九〇年二月十九日のある雑誌に 論文を出しているのですが、この日から株の暴落が始まっています。
 今度、九〇年代をずっと見てみると、九三年以降クリントン政権は経済を重視した 戦略をとりました。日本に対して、一番ターゲットになったのは金融です。やがて日 本は魅力の徐々になくなる国になってきていますが、金融のところだけ、まだかなり 食べ物が残されていたので、この金融を支配しようという、つまり、今度進めてきた のが日本版ビッグバンです。これも「フリー・フェア・グローバル」というコピーも、 アメリカの証券会社から橋本首相の秘書に渡された紙に書いてあった言葉だと言われ てるわけですけど、日本がそれを金融や経済が一番弱くなったところで進めれば、当 然そのメリットを受けるのはアメリカです。
それが今、着実に進行していますが、この中で、小泉政権とか竹中さんがとってい る政策をというのは、結局今、景気をよくする政策をとらずに、不良債権の処理だけ やると。実は、アメリカも特に民主党の政権、クリントン政権というのは、マクロ経 済の専門家が非常に多くて、日本に対して、比較的景気重視というコメント、メッセー ジを発してたのですが、ブッシュ政権になってからそれが非常に薄くなって、景気は いいから不良債権を処理しろと、小泉さんが言ってる事に近い話が強くなって。そし て、小泉さんはアメリカもこう言っているし、財政を使って景気を支えるのはよくな い、金融処理だけやってくれと言うわけです。
 そして、景気を回復せずに、金融処理だけ進めてるのですが、その結果、株がどん どん下がるし、地価もどんどん下がるし、景気も悪くなっていますが、これを実は喜 んでる人がいるんです。それはアメリカを中心とした不良債権処理業者とアメリカの ファンドですよね。
元谷●ハゲタカファンドとかですね。
植草●そうすると、日本の政権がアメリカの意向を鵜呑みにして、そういう政策を進 めて、日本の市場を全部根こそぎアメリカに渡すというのは、ほとんど国を売る行為 になってしまってますね。
元谷●それは、国益という観点が欠けてるからですね。例の九七年のときに、東南ア ジアの通貨危機で、空売りされて暴落させられて結局、外資がみんな優良企業を取っ ちゃったわけです。韓国のサムスンなども非常に良いと言われてますが、中身は株の 過半は外資が握っているのと同様に、日本も言った通りにやってよくなりましたねと。 三年たったら不良債権もなくなって、景気もよくなっていいのではないか。しかし全 ての会社の過半の株主が外資となって、カルロス・ゴーンさんに似た人が社長になっ て、日本人はまじめな労働者として賃金をもらい、給料もそこそこでいいと言うので あれば、構いません。しかし、小泉さんの進めてることや竹中さんの言ってることは、 ある意味では、国益という観点を抜いて考えていけば一つの選択肢ですが、日本は独 自の国家戦略を持つべきだという観点に立つとちょっと情けないと思います。
 だから、例えば私が今年、赤坂見附で買ったビルも、第百生命の持ってたビルなん ですけど、そこから買えばもっと安く買えたのに、バルクでモルガンスタンレーが第 百生命の持つ資産をまとめて安く買ったのの一つを競争入札させられて、私は高く買っ たんですよ。高いといってもバブル時から見ると、相当安いから買ったのですが、何 故外資に儲けさせてしまうのか。日本の資産を一旦外資にただ同様に安く売って、日 本人はそれを高くして買い戻すという、その利鞘はどこに入るのでしょう。これがお かしいですよ。だから、みんなバルクで云々というと、日本企業にはなかなか参入の 機会がなくて、いわゆるヘッジファンドとかハゲタカファンドとか言われる、向こう が日本の不良債権処理のために手ぐすねを引いて待ってる連中にまとめて売って大き な利益を与えて、そしてその後、日本の企業でまだ力ある勝ち組と言われるところが 買い戻すわけだけど、私はそういうやり方は日本全体で考えると、ばかばかしいと思 います。
植草●ほんとうに注意して見ないといけないのは、やっぱりリップルウッド・長銀方 式なんですよね。ですから長銀を破綻させて、それを一種入札にかけて、手を挙げる 会社は何社かありましたけれど、これは結局リップルウッドが買ったんですね。実は このときに何社か日本の銀行も手を挙げてましたが、そのときちょうど私はワシント ンに行っていろいろ情報を集めてたんですが、既に先にリップルウッドは確定してい ました。リップルウッドに落とすというところは実は決まっていて、ただ直接それを やるわけにいかないので、何社か手を挙げさせてリップルウッドにやったと。結局、 ここにルービンまで、すなわち財務長官まで、役員で入って報酬を受けている。コン サルタントはゴールドマン・サックスが入って、コンサルタント料をがっぽりもらっ てますね。
結局、今日本で進めてるのは、不況を促進して資産価格を暴落させて、企業整理を し、その後に入札方式で売り渡すのですが、その大半はおそらくはアメリカを中心と したファンドに落ちています。明治に官業払い下げというのがありましたけども、今 度は米国に対する日本の企業の払い下げなのです。
元谷●要するに、日本人が日本人においしい資産を売ったらやっかみがあるので、外 国人である白人とかユダヤ人などに売るのならあきらめもつくと。故にリップルウッ ド社であればいいだろうということで、最初にリップルウッド社ありきと考えるわけ です。それを設立して三年ぐらいの会社に安売りしてはちょっと問題があるから、権 威づけのために、やれルービンやら、やれ何たらという形で格好をつけて、早い話、 日本の国民に納得するようなお膳立てまでつくってあげて、彼らにおいしい思いをさ せてるということです。
 その構図が今あらゆるところで、バルクセール、不良債権のバルク売りとかいう形 をとったり、株価をどんどん下げて、株を買い占めて、健全になったときに、ハッと 見たら、株主構成割合が全然変わっていたということが起こっています。近い将来、 国益という観点に立って考えたときに、彼らは売国奴じゃないかという指弾をされる ときが来るんじゃないですか。
植草●まさに今はそのような図式で、本来日本の国策としては、外資による日本占領 の図式をできるだけ回避するような政策努力が必要です。それは何かというと、結局 景気を回復させて、安易な買収が入ってこないような防波堤を設定することなんです よね。
 私はずっと財政再建が重要だと言い続けたんですね。ただ、財政再建はアメリカの 場合にも例えば九二年度に、三十兆を越す財政赤字があったのが、九八年度に黒字に なっていますが、アメリカのやり方というのはまず景気を回復させて、景気が軌道に 乗った段階で、かなり思い切った支出の削減や増税を行って、財政再建させました。 ところが日本の場合には、橋本政権も小泉政権もそうですけど、いきなり緊縮策に踏 み込んでいって、経済を落とし込んでしまうので、税収が落ちて財政赤字はむしろ膨 らんでるわけですね。ですから、景気回復なくして財政再建なしと私は言っているの です。
まず経済という木をしっかりと育てなければならない。財政というのは経済という木 が生み出す果実をもとにして行う活動ですから、実ができたらもぎ取って、芽が出て きたら摘み取って、葉っぱができたら刈り取っていたら、木が枯れてしまいます。そ の発想がないんですよね。



土地の譲渡と取得に関する 税制を五年間凍結し、ゼロにし、 固定資産税を大幅減税する

元谷●日本は官僚社会なんです。官僚による官僚のための官僚の国家ではないかと私 はよく言ってますが、天下りをもって自分の権益、利権を退職後もずっと省ぐるみで、 先輩の面倒をみれば自分がまた面倒をみてもらえるという、そういう官僚が生涯過ご しやすくするために、壮大な無駄をやっている。これを直すには大幅規制緩和をどん とレーガンやサッチャーのようにやる。これをマスコミは支援しなければいけないの に、その辺のことをわかってないのか、それとも自分の利害からいったらマイナスに なるのか知りませんけれども、第四の権力としての立場を放棄しています。
 世の中に、官から民に売られるもので談合のないものはなかったわけだし、今もな いわけです。それを必要悪というような形で、マスコミもほとんど指弾せず、トカゲ のしっぽ切りでいつも終わっているじゃないですか。そして公社・公団のときに必ず 天下りの人がいて、その関係会社が膨大な利益を出しながら、本体は赤字だから、支 援をしないといけないということで税金をつぎ込み、無駄なことばかりですよ。
 そういうことを考えると、公共工事でやるべきことは日本にはたくさんある。例え ば、大深度地下に、個人や法人の法的権限の及ばない法律をつくって、地下六十メー トル以下を公共の空間として、そこに循環道路でも横断道路でも、首都圏の交通渋滞 を解消するものをつくるべきです。今でもクモの巣のような電線を張りめぐらせてい るような町が多いけれど、電線の地中化とか、水道・ガス・公共下水道だとかまとめ て共同溝にしなければいけません。
 先日、ラスベガスに行って、あの町並み、道路の幅の一つ一つに凄さを感じました。 それを思ったら日本は、これでどこが経済大国なのかと。全然、実感として経済大国 でないじゃないかと。ただ単に、給料も高いけど物価も高いだけで、差し引きは何に もいいところがない。高物価非効率社会で、数字だけ見ると、アメリカの平均的なサ ラリーマンよりも日本の平均的サラリーマンの給料がそこそこいいじゃないかという から、何か安心するけど、ガソリン買ったら倍も払わなければいけないし、飲んでも 食べても高く払って、いつも貧しい思いをしている。満員電車に揺られ、あまりの渋 滞で、まるで駐車場のような高額有料の首都高に乗ったりと。
これはやっぱりきちんと五年後、十年後を見据えた国家戦略・国家ビジョンを、植 草さんとかを中心にすすめるべきです。思い切って、外国人を入れてもよい。それは 白人でもユダヤ人でもアングロサクソンでもよい。明治のときはそういう人が来て、 都市計画や国家戦略をつくったじゃないですか。今、政治家には大変失礼ですけど、 そんなに聡明な人はいないですよ。私が会った李登輝さんの方がよっぽど頭いいです よ。だからそういう意味では、政治家も納得する世界基準で、識者というか賢者を集 めて日本の国家戦略本部みたいなものをつくる。ビジョンを示して、そのためにこう すると言ったら、国民も納得するし、マスコミもついてくる。それにはまず豊かさの 実感できる社会をつくる計画が必要です。人間、自分の住む家が豊かでないと…。一 生のうちに一番長く滞在するのは結局みんな自分の家です。その家が貧しいから豊か さが実感できない。その家を豊かにするのには、家のスペースを大きくする。大きく しやすい政策、それをやれば景気回復には一番です。
 それといわゆるインフラ投資です。公共投資でもって、私権をある程度制限してで も、例えば道路の立ち退きの問題とか、それから成田の飛行場拡張が三〇年経っても できないでいるのはナンセンスです。そういったことができる法律を改正することに よって、まだまだやるべき公共事業もでてきます。今やってるダムがどうだとか、地 方に道路がどうだというのではなく、東京に相当まだやるべきことが残っていますよ ね。豊かな日本、これを目指す政策を実行できる政権を選んでいかないと、今のまま では期待が持てないと思います。
植草●私も、元谷さんがおっしゃることはほぼ賛成です。構造改革も大事なんですが、 別に緊縮財政をやることとか、会社をつぶすことが構造改革じゃなくて、私はよく三 つ言うんですが、一つは官と民の関係ですね。官が上にいて民が下というのは千六百 年体制と言ってるんですが、戦後の憲法は一応国民主権なので、水平の関係にしなけ ればならない。それをわかりやすくするのは天下りの撤廃なんですね。それをまずな くす。それから企業の活力を高める一番の方法はやっぱり競争促進なので、規制を撤 廃する。
元谷●資本主義市場経済社会というのは競争社会なんだから、その原則にのっとると いうことですかね。
植草●はい。競争があれば、どんどん変わるんですよね。それからもう一つは、公共 事業です。何が問題かというと、百お金が出てるのに、工事に五十しか回らずに、五 十がどこかに消えるというこの構図が問題で、鈴木宗男議員が悪いとかいうのではな しに、その構造を直さなかったら何の意味もないんですよ。そういう意味の改革は実 はあんまり進んでません。結局、財務省が力を持って、財務省の関係する天下り機関 の特殊法人などは、ほとんど何も手がついてない状態なんですね。逆にいうと、財務 省にとっては国土交通省とか、郵政省が目障りな存在で、ここだけターゲットを当て てやろうとしてるんですよ。
 結局、財務省の王国を今、築きつつあるのがまさに小泉政権で、実はいろんな問題 があります。一番問題の中心になるのは財務省で、それまで経済政策の決定権を持っ てきたところなんですが、実はほとんど経済政策の専門家がいないんですね、法律や 行政の専門家はいるんですが。この人たちが依然として自分たちは何でもできるとい う過信の上に立って政策を決めるから何度でも失敗してしまっている。今であれば、 特に景気をよくするための政策で、減税というのは一つあると思うんです。公共事業 は、中身を変えれば必要なものはたくさんあるわけです。減税も、例えば個人消費を 刺激するとか、設備投資を刺激するということも大事です。もう一つは、やっぱり住 宅が我々の豊かさの実感という面で非常に重要です。土地に関連した税制の、先ほど も出てきた不動産取得税とか登録免許税とか固定資産税とか譲渡所得課税とか。
元谷●ダブル課税とかトリプル課税があるじゃないですか。登録免許税の他に不動産 取得税を取って、建物消費税も取って、事業所税の新増設税も取って、色々ダブッて てすっきりしない。
植草●私はこれは、五年間凍結でもいいと思ってる。全部ゼロにするぐらいですね。
元谷●そう、ゼロ。その間、地方の税収が減少するのであれば、別の形で補てんすれ ばいい。それから地方も国も小さな政府、金のかからない政府にしないと。今は石を 投げたら議員さんに当たったり市役所の職員に当たったりするようなぐらいで、小さ な町に行くと、その何割かはほとんど議員か村役場に勤めてるか、そこに嫁に行って るか、みんなそこにつながってるような、そういう社会になっているじゃないですか。 だからちょっと合併して減らして、小さな町にそんな何人も議員も必要ないですから。 国会だって、衆議院、参議院の数があれだけ必要なのかという問題もあるでしょう。
植草●ですから、日本に今、三千二百程度の地方公共団体がありますが、総選挙の区 割りが三百ですから、日本の地方公共団体も三百にすれば…。それで、地方議会の議 員と首長や市長、村長、町長、さらに国会議員を合わせると、日本に大体七万人位い るんですよ。
元谷●おやおや。
植草●おそらく、七千人でも何の問題も生じないと思うんですが、もし三百に地方公 共団体を統合して、地方議員などを十分の一に減らしたら、それだけ膨大なコスト削 減になるんですね。ですから、民間がリエンジニアリングをやっているときに、それ をやらない手はないと思います。
 ただ今の日本は大きな問題が二つあると思います。一つは李登輝さんと対談された 中でも出てましたが、結局今の日本には官僚もそうですし、国会議員もそうなんです が、「私」と「公」というので、「私」しか考えてない人ばかりなんですね。本当は 「私」を離れて、「公」で考える人が政治とか行政をやらなきゃいけないんですが、 それがあまりにも減り過ぎてるのが一つですね。
それからもう一つは、国民の世論調査などを見ると、国民の側も物事の本質を見る力 をかなり失っているというか、見かけの顔のよさとか言葉の歯切れのよさとか、パフ ォーマンスだけにいってしまっている。ワールドカップのときに、ベッカムの人気が 出ましたが、その感覚で政治まで決めてしまったら、国は滅んでしまいます。



教育制度に問題がある

元谷●それは教育制度に問題があると思います。今の偏差値教育はデジタル記憶勝者 を良しとしていますから。
 みんなそれぞれが本来は、自分の強み、すなわち私はこれは強い、私はこういう能 力がある、私にはこういう特徴があるとみんなが自信を持って生きられる社会から、 偏差値というものさしで、みんな自信をなくしてしまいました。良い学校を出たあの 人が言ってるなら間違いない、大蔵省が言ってるなら間違いないと、みんなその辺に シフトしていくでしょう。
 私などはあまのじゃくですから、どちらかと言えば、変わり者と言われています。 それは、一切権威を否定して、世界六十四カ国を回っていろんな人に会って、いろん な話を聞く。日本をちょっと離れてみるとわかるんです。この国民をつくった教育が おかしいから、まさしくアメリカが、再び日本が白人社会に刃向かっていかないよう に日本を弱体化しようと思って、貧しい農業国に転換させる為にやったことがここま でうまく効くとは思わなかった。アメリカの期待以上に効いて、占領下に与えた憲法 をいまだに後生大事にするのが当たり前になっています。
 これがおかしいのであって、新聞社もマスコミもその辺に責任があります。教育の 問題、マスコミの問題、これを改めていかないと、学校で違うことを学んで、いざ社 会に出てみたらマスコミが違うことを報道してたら、違うものと違うものを合わせた ら正しくなってしまったら、これは正しいものだと思い込んでしまいますから。この 思い込みがだんだん自虐的になり、いつまでも謝り足らない。もっと謝らなければと 謝り続ける。韓国の人ももちろん、中国の人でも日本はおかしいと、ちょっと一歩離 れるとそう言ってるんです。ところが表に立つとけしからん国だ。戦争のときの従軍 慰安婦がどうとか南京虐殺がというたびにODAを…。だから、彼らは金をどうやっ てせしめるかというだけでこう言っているのに、それに乗っていつまでも謝罪外交し ているのは情けないことです。
植草●そうですね。今まで結局、日本の教育は、評価の尺度が非常に画一的に、偏差 値だけなんですね。その偏差値というのは何かというと、ほとんど記憶力と算術能力 だけなんですね。ですから、これは能力の一つですけど、ただ、新しい問題が出たと きにどういうふうに考えるかとか、あるいは複数の選択肢があったときに、どういう 基準で選ぶとか、そういうのはほとんど無関係で、記憶力と算術能力だけあれば、偏 差値は上がるんです。これは一つの能力ですけど、ある断片でしかないのに、その尺 度だけで全部序列をつけてきたのです。
もう一つは日本の教育というのは、結局できるだけ個性を持たないようにして、平 均的なことについてはうまくできるようにして、上の言うことには逆らわないように、 軍隊のよい兵隊になるような教育なので、そういう人たちは結局権威に弱いんですね。 権威に弱いから、格の高いもの、だからみんな勲章を望んだりとか、それにみんな迎 合してしまって、マスコミでさえ権力になびいて報道するから、一色に染まってしまっ ています。
元谷●そうなんです、それが駄目ですよね。だから、ディベートをやらないのが一番 悪いところなんです。本来教育というのは、何が真実かというのをディベートを通じ て探し出さなくてはならないのに、先に答えありきで、その先の答えを暗記して、暗 記力がいつまで持続したかというテストだからだめなんですよ。本来は記憶力も能力 の一つであるならば、創造力や、自分を表現する表現力も能力になるはずです。だか らいろんなものを自分のものとして、一つの思想体系というか価値体系というか世界 観といいますか、そういうものをつくり出して、自分を表現する能力、これはやっぱ りディベートで鍛えていかないと身につきません。だから、日本の外交官というか外 務省の人は偏差値教育で上がってきた人でほかの国と議論した所で、中国の十三億人 の中で口げんかのうまい人間が勝ち抜いて外務官僚になってくるんだから、全然歯が 立たないわけです。
 ですから外務省のいろんなことがぼろぼろと報道されて、初めて日本の国民は、外 務省とはひどいところだと気づきます。ところが、もっとひどい人間が財務省にいま すが、気づいてないだけなんですよ。だから、外務省がひどいのではなく、外務省は そういうふうにぼろぼろ出たからひどく見える。でもさらにひどいのは、最も高い偏 差値の学校教育を受けてる人間がたくさんいる、財務省ですので心配してるんですよ。
植草●例えば、歴史の教育でも、ドイツの子供たちは、手を挙げるときに手を挙げな いんですね。手を挙げるのはハイル・ヒトラーになるので、指を挙げます。その意味 を学ぶのが歴史の教育なんですが、日本の場合には、一一九二年に鎌倉幕府ができたとか、年号を覚えてるんですよ。ほとんど無意味なこ とをやってるわけですね。
 もう一つ言えるのは、国家の尊厳というか、例えば小泉さんが平壌に行って、その 場で、結局八人死亡という情報が知らされました。ただこれが何かというと、完全に 国内で行われてる犯罪、すなわち誘拐殺人に近いようなものです。
元谷●オウム真理教と一緒じゃないですか。オウム真理教の麻原に会いに行ったよう なものじゃないですか。
植草●そうなんです。麻原に会って、過去にうちの若いもんが何かやってたらしいけ ど、おれは関係ないと言ったら、それはよく認めてくれたと握手して、経済援助の約 束にサインしてくる。これはあり得ないんですよ。だから平壌宣言などを見ると、拉 致の拉の字もないし、それについて謝罪の謝の字もないし、一方であるのは、新たに 戦前の日本の謝罪と、それから日本の経済援助だけなんですよ。こんなことに署名し てきたわけです。
元谷●席を蹴って帰ってくるべきだったということですね。
植草●ええ、私は小泉さんが帰って来た日に、即刻退陣の大合唱になっていいと思っ て、そういう記事を書きましたけど。
元谷●そしたら逆に支持率が上がって。(笑)
植草●それは国民の側に問題がありますけども、逆に、だから私はそれは署名せずに 帰るべきだったと言いました。
元谷●大体北朝鮮には行くべきじゃなかったと思います。安否を知らせてもらうのに 一国の総理が出向くなんて、まったく情けないことです。
植草●それは何かというと、結局国のためじゃなく、個人のためなんですよ。すべて の行動が、自分が次官になるために一発大逆転をしなくてはならないという…。
元谷●今の外務省批判を避けるために。
植草●ですから、国家として、国民として、国家の尊厳みたいなのを重んじる国民の 風土がなければいけないし、上に立つ人は少なくともそういう判断力を持たずに行っ てはいけない。署名せずに蹴らなくとも静かにいすを引いて。(笑)
元谷●いや、やはり席を蹴って帰ってくるべきでしたし、そもそも行くべきでもなかっ たのではないですか。
植草●行くのはいいとしても、あそこで署名したことの言い訳にはなりませんね。
元谷●どうして日本はこういうていたらくな国になったかというのは、先の大戦の総 括ができてない、ここに問題があると思います。先の大戦が非常に悪いことをした、 こればかりを教えられて、学校、報道、テレビ、新聞などでそう教えられるから、み んな自分のおじいさん、お父さんは大変な悪い国民で悪いことをしたんだと思ってし まう。自分の民族に誇りが持てない。歴史に誇りが持てない。そこから自虐的な発想、 自虐史観とか全部始まっているのです。
 では日本が戦争を始めた時、一九四一年十二月に、世界で、有色人種で独立国家が 幾つあったのか。アジアでは日本とタイですか。アフリカではエチオピアと南アしか なかったらしいですよ。今、幾つありますか。あるいは日露戦争で、日本がロシアに 勝ったことが、アメリカがオレンジ計画を始めた原因でもあるし、いわゆる白人種で あるヨーロッパやアメリカが震撼したわけですよ。これで将来アジアがみんな、日本 の勢力下、有色人種の勢力下になってしまうということから日英同盟が破棄されたわ けだし、破棄するようにアメリカが巧妙に仕込んだわけですよね。その辺から歴史を きちっと教えていくと、こんな自虐的な国にならないです。
 私は、冷戦終結までは間違っていたとしてもよかったと思っています。今の憲法を 守ったり、アメリカの半植民地状態だったかもしれないけれども、冷戦まではよかっ たと。しかし、それはアメリカの利益に沿って日本が戦後の経済復興を遂げていく、 ある意味ではうまく利用したとも言えるので、それはそれで容認できることです。し かし、その後今もってやってることはとんでもないと思います。このまま行くと、骨 の髄までしゃぶられてしまいます。この辺できちんとした国家観と国益というものを 持った政治をやったり、外交をやったりしないと、大変なことになります。ここのと ころは警鐘を打ち鳴らしたいなと思っているのです。
植草●私もそう思いますが、ただもう一つ言えるのは、第二次大戦などを見ると、第 二次大戦の後半というのはもう戦況が相当不利になってきたんですよね。ですから、 我がほうの被害は甚大だったんですが、毎日、我がほうの被害は軽微なりという報道 をした結果、二十年までずれ込んで、二十年になって東京も沖縄も広島も長崎も全部 やられてるんですね。もし事実を正確に公開していれば、十九年にやめてた可能性は 非常に高いと思うんですね。
 それは今も実は一緒で、過去十年間何度か景気対策をやりました。景気対策をやる と株も上がって景気もよくなるけども、結局時間がたつともとに戻って、後には財政 赤字とむだな公共投資の山なので、これをやめようという話にみんな洗脳されてしまっ てるのです。しかし、事実は、景気対策をやって浮上したときに、九六年とか二〇〇 〇年はそうですけど、そこで先を急ぎ過ぎたがむしゃらな緊縮財政を始めた結果、す べてもとに戻して突き落としてしまったんですね。この事実をもし人々が知れば、景 気対策が悪かったのではなしに、景気対策を打ってかなりよくなったときに、がむしゃ らな緊縮財政を財政再建原理主義と言ってますけども、この原理主義で経済を破壊し たということに問題があるというのはすぐにわかるはずなんですね。ところが情報が 操作されて、間違った情報が流布されてるために、国民は間違った情報をもとに、 「欲しがりません、勝つまでは」と言ってる間に株が八千円になったり、七千円になっ たりしているということになってるわけですね。



アメリカの豊かさと比べると まだまだ日本は遅れている日本の再武装の名分

元谷●本格的によくするのは何なのかと言うと、これは規制緩和であり、投資減税と か、不動産政策減税とかやって本格的に豊かさの実感できる社会をみんなでつくって いく、そのためであるならば、国債が六百六十六兆、もう超したのかもしれませんが、 三十兆の枠にそうこだわらなくてもいいと思います。例えば東京の地下に大循環道路、 横断道をつくることがその後百年、二百年にわたって、みんなの便利を買うのであれ ば、良しとすべきです。自分の代の負債を孫の代に払わせていいかという説がありま すが、私は孫の代に使うものは思い切ってやればいいと思います。例えば箱物つくっ て、維持してるだけで赤字で、十年か十五年たつと粗大ゴミと、こんなものをつくる のはよくないけど、恒久的に使える大型の都市改造計画、それにお金をかけるとすれ ば、それはむだ金じゃない。
 アメリカの豊かさと比べると、まだまだ日本は遅れてるし、ヨーロッパの豊かさと 比べてもまだまだ日本は豊かさは実感できていないと私は思うのです。真に豊かさを 実感できる社会をつくるべきでしょう。そのために今の財務省のやってる政策はおか しいし、私の財務省の友人、当然東大の法学部卒ですが、彼が言うには財務省は間違っ てない、政治家が官僚を使うのであって、政治家が方針をきちっと出せば官僚はきちっ とやりますよと。
 だから私は政治家はほんとうにしっかりしてほしいと思うんですよ。日本は、政治 家は官僚の言う通りにやればいいのだというのは逆さまなんです。結局、世論調査で みんなが望むことをすればそれで良いと。まさに世論調査政治家はポピュリストなん ですよ。だから本来、私はこうしたい、ゆえにこうしたい私を支持する人は私に一票 くださいと。それが集まって政党となって、それが多くなって政権をとって、それが 官僚を使うという、これが本来の民主主義の姿です。本来の民主主義をやってないこ とが日本のおかしな所です。だから非常に情けない国なんですよ。



日本のリーダーは 読むリーダー

植草●本来リーダーっていうのはLで始まるリーダーですけど、日本の政治家のリー ダー(leader)っていうのは官僚の書いた原稿を読むリーダー(reader)ですね。
元谷●うまいことを言いますね。初めてききました(笑)。readingのリーダー。
植草●例えば公共投資が非常に多いと言いますけども、国債を発行して、それでつくっ たものが将来百年、二百年使えるものであれば。百年、二百年で返済していくのは当 然なんですね。
 ところが一方で、六百兆の国債は膨大だと言いますけれども、最近、ここ一、二年 だけ見ても、二万八百円の株価がもう八千五百円ですよね。この間に、時価総額をど れだけ安くしたかと。それで株式と地価を合わせれば、多分、二百兆から三百兆ぐら いには目減りしてきてるのです。ですから、そういう全体像を見ないで部分だけ走っ て、見かけだけ追うということを進めたら、ほんとに国は滅んじゃうと思うんです。
元谷●私もそういう不安感は最近、特に抱いてますね。だから、いわば小渕さんはそ のことにある程度気づいてケアをしてきたけれども、森さんもよく頑張ったんですけ れども、今の首相になってからは、特によくない。小泉さんは、ちっともわかってらっ しゃらないんです。これをわからせてあげるブレーンが必要です。それが先生の仕事 ですよ。
植草●そうですね…。会社でも、会議の多い会社と上司の顔色ばかり見てる会社は悪 い会社と言われますけど、今の政権というのは、結局、上の人が自分の耳に聞こえの よい話だけ好むので、みんな何かおべんちゃら使ってるような人ばっかりになってま すし、何かあるとIT戦略会議とか産業局長会議とか言っています。
 特に金融問題の処理などは、人によって意見が全然違うんです。その人たちが、会 議をやったら意見が落ちるところに落ちるかというと、邪馬台国が九州にあったと主 張する人と近畿にあったと主張する人と会議をやっても。
元谷●そうはなりませんよね。
植草●ほとんど意味ないわけですからね。
元谷●だから、会議もほとんどディベートをやってないでしょう。ディベートをやら ない会議で、みんなが自分のものを持ち合って、それを出し合いっこして帰ってくる のでは会議にならない。
植草●そうしたら、結局足して二で割ることになっちゃうんですよね。
元谷●ですから、やっぱりもうちょっと日本のリーダーの選び方を変えていかないと、 大分この先、こういう時代が続くのではないかという不安感がありますよ。
植草●先ほど言われた日本の国家戦略とか、国家のビジョンとか、それを有志が集まっ てつくるべき時期ですよね。
元谷●そういう時期に来ていますよ。
 私は、まだ歴代の総理では中曾根総理ぐらいは国家を背中に背負ってるというか、 ある程度、物のわかる、そして国を愛し、国益を考え、国民のことにも思いをいたす。 でも今の、ここのところ年がわりでかわる総理は、その辺がちょっと希薄な気もしま すよね。
 アメリカはいろんなシンクタンク、きちっとしたのが幾つかあります。だから、日 本ももうちょっとその辺のしっかりしたものがあって、そして政権交代のときにバン とかわって、次はこっちの考え方でいこうとか、それは次のときにおかしいからこう やってと切磋琢磨をしていくようにしないと、首のすげかえはあっても官僚はかわら ない。その官僚が日本で唯一のシンクタンクで、そのシンクタンクというのは世界を 見てないじゃないですか。単に先輩と後輩との付き合いかたしか知らない。全然、世 界を見てない、世界とディベートしてない、そういうシンクタンクが唯一あって、彼 らは選挙で選ばれたわけでもないのに、何となく自分が国を治めてるような自負心だ けは持ってるじゃないですか。ここまで官僚の悪口を言っていいのか分かりませんけ ど。(笑)
植草●いずれにしても、やっぱり今の日本の弱さ、国民の物を見る力が落ちてるのと、 もう一つ、やっぱり野党が弱体化し過ぎですね。
元谷●ちょっとしっかりしてないですね。寄り合い所帯で、選挙に当選するためのボ ランティア組織なんですよ。ということはガラガラポンやらないと、自民党も民主党 も両方とも党の中の幅が広過ぎて、足して二で割る的な政策しか出せないところの集 まりでしょう。それと公明党を取り込んだじゃないですか。結局は、キャスティング ボートを握る党の政策を取り込まないと、政策が決まらないじゃないですか。自民党 対民主党じゃなくて、公明党対民主党という格好になってるから、ますますややこし くなってるんですよ。
 政権をとるための数合わせ、選挙に上がるための数合わせ、みんな数合わせで、政 治家になった日から次の選挙に上がるためにどうしたらいいかということしか考えて ない。
 私は、ブッシュさんの次の選挙に勝つためだけにイラクと戦争をするのではという ふうに先月号のエッセイで書いたけれども、どこの国もそうなのかもしれませんが、 特に日本は情けないですよね。だから、植草さんが発起人となって、意識ある人を集 めて、きちっとした提言をして、だれが見ても、今の混迷な日本を脱却するにはこれ しかないという理論をきちっと固めて、公開討議の場に付す、そして今の官僚、特に 大蔵を中心とする彼らと議論する。要するに、どちらかを選べというぐらいにまで理 論武装する。何か機会があれば、リチャード・クーさんなんかもいい考えをお持ちで もあるし、日本人だけでなくても、世界にはいろんな賢者もいます。アメリカなどに も植草さんの友人は多いでしょうし、そういう人と組んで何かできないかなと私はちょ っと思ってるんです。
植草●代表のネットワークなどは、そういうものを組織するときには非常に有効でしょ うね。



核を持つ中国を 民主化へとソフトランディング

元谷●だから私は、そういう意味でアメリカと一対一の関係よりも、日本とアメリカ の関係を、例えば台湾とか韓国、李登輝さんとか、金完燮さんとか、もっと言うと先 日モンゴルの首相にも会ったし、そしてフィリピンのデベネシア下院議長とも会談し ましたし、シンガポールの胡暁子さん、例のタイガー・バームの彼女と一緒に食事を しながら意見交換したのですけど、いわゆるずっとこの辺の中国を取り巻くベルト地 帯が、今後中国の膨張と崩壊、内乱分裂の危機をどう防ぐかと。要するに中国は分裂 する、これはもう時間の問題です。
 なぜならば、十三億もの人間が一つの独裁政権のもとでいつまでも続くはずがない、 民族も違い、貧富の差もだんだん拡大している、これは続かないでしょう。
 だけど彼らは核を持っている。核を持つ中国をいかにソフトランディングさせ、民 主化していくかということが、今、我々にとって一番大事なことだと。そのためには、 それに対抗するパワーとして、日本は憲法を改正して、日米安保条約を平等互恵で対 等なものに改正するとともに、東アジアを中心とする一つのパワー、相互安全保障条 約をつくって、それとアメリカとが同盟関係を結ぶ。いわゆるNATOとアメリカ的 な関係を、この東アジアに日本を盟主としてつくるべきだと。そのパワープレゼンス が中国のソフトランディングを促すのではないかと論じあいました。私などは、本来 はそんな役柄じゃないんですけど、そういう思いをちょっと彼らに話してるんです。  そういう意味で、植草さんを中心として、日本の国益を考えて、日本の将来を考え て、このままではいけない、何とかしなければいけないという人を募っていく時期に 来ています。
 ところで、今日は大変長時間になってしまいました。最後に「若い人へのメッセー ジ」ということで締めさせていただきたいと思いますので、一言お願いします。
植草●私は日本に生まれ育って、日本が好きな人間の一人ですけれども、日本という 国は、色々な面で優れている部分を持っていると思います。人間性だけを見ても非常 によい人が多い国ですよね。
元谷●ええ、そうですね。
植草●伝統から来る行動様式も、立ち居振る舞いも、他国と比較しても非常に質の高 い国だと思います。
 それに加え、能力もあるし、勤勉でもあるし、それから非常に潜在能力の高い国だ と思うんです。しかし、今の日本は色々なものの組み合わせが、すべてアンバランス になっていて、非常におかしなことになっています。これをもう一度立て直さないと いけない。似たような状況で、江戸から明治に移行する過程で維新の動きがありまし たけれども、これも若い人が中心になって、「私」を離れて「公」のために行動する という部分が非常に強く、それが国をある一つの方向に導いた原動力の一つだったと 思います。
 それから、国内で内戦をするよりかは、和解をして国としての体を守ろうという考 えは、無血開城などにつながるわけです。やはり国家の尊厳とか国を尊重するという 意識が強かったと思うんです。だから、自分も含めて若い人間が、「私」を離れて日 本のためにどうしたらいいかと考えて、エネルギーを注いである運動を起こせば、次 の時代を切り開くことができるんじゃないかと思うんですね。
元谷●日本はやはり国難があると団結する。そういう意味では、江戸末期の、開国を 求めてペリーが浦賀にきたり、いろいろな欧米列強の動きが、ああいう形で日本に明 治維新をなし遂げさせたと私は思うんです。
 ところが、今の日本を考えてみると、これだけ不況と言うけど、給料は下がってな いです。物価が下がってるんで、今の状況を深刻に思う人の数が少ないんですよ。だ から、もしほんとうに失業率が一〇%を超えたり、給料が例えば三割も四割もカット されるようなことになると、人々の意識は大きく変わります。
 だから、そうなって意識が変わるようでは情けないのですけど、何となく私は、こ のまま何も手を打たずに金融システムが崩壊して、銀行がばたばた潰れだすという話 になってきたときに初めて国民の目が覚めると思います。でもそれでは遅いから、そ の前にそうならないような手をどう打つかという考えでやっていかなければいけない と思います。
 だから、若い人が余りにものんびり構えていては、危機が迫ったときに、過去は若 い人が立ち上がったよと、今、もっと若い人がしっかりしていかなければならないよ と私は言いたいです。
植草●今の日本は、平和ぼけとか豊かさぼけで、眠っちゃってる人がほとんどかもし れないですね。
元谷●結局、背中に土性骨がなくなったんです。世界市民になってしまい、日本人と いう意識がない。そこがやはり問題です。だから、国益も考えなければ何となく世界 市民の一人という、ある意味で平和で、ある意味で豊かで、ある意味では結構いいこ とづくめなんです。
 でも、いいことは永遠に続けばいいことはいいことだけど、そのしっぺ返しという のがあるとするならば、ちょっと考えないといけません。私が知っている中で、いい ことばかり続いたという歴史はない。いいことが続けば何かある、この辺で備えあれ ば憂いなしで、ちょっと考えないといけない。冷戦後の四十五年間の日本の経済成長 は、アメリカの利益にもかなっていたからさせていただいたんだけど、今の日本はア メリカにとって主要な経済的ライバルです。その位置づけをきちっと理解すれば、安 心してはいられません。その安心してはいられないという自覚を若い人は持つべきだ と思います。そういう意味をきちっと解析して政治家にも官僚にも国民にも訴えられ る、建白書を出して、それをもとに議論を起こしていけば良いと思います。
 かつて二十一世紀政策協議会というのがありましたが、あの程度の議論じゃなくて、 もっとグローバルな世界基準で日本、それからアジア、世界というものを見た観点か らの議論ができればなと思ってます。ぜひひとつ、またいい知恵を貸してください。
 きょうは、いろいろ忙しいところ、ありがとうございました。
植草●どうもありがとうございました。

BIG TALK

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