Electronic Journal: ●「ロシアがグルジアにこだわる理由」(EJ第2508号) |
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グルジアの南オセチアとアブハジア、それにウクライナ——こ
れらの地域にロシアは非常にこだわりをみせています。どうして
なのでしょうか。ロシアの今後の動きを予測するために、これら
の地域について考えてみます。
2008年4月にブカレストで開催されたNATO首脳会議で
ウクライナとグルジアのNATO加盟問題が協議されたのですが
結果は先送りとなっています。そのときの会議では、2008年
12月のNATO外相会談の席上で結論を出すべく米ブッシュ政
権としては、グルジアとウクライナの加盟を承認する線で動いて
いたのです。
しかし、グルジア紛争が起こり、昨今の情勢や欧州各国の慎重
姿勢を反映して、12月のNATO外相会談でも両国の加盟国入
りをさらに先送りすることに決まったのです。
これで、事実上グルジアとウクライナのNATO加盟は困難に
なったといえます。なぜなら、ロシアにとってグルジアとウクラ
イナは地政学的な重要性のある地域であるからです。
グルジアから考えてみます。佐藤優氏によると、ロシアが何か
行動を起こしたとき、その意図を知る機関紙があるそうです。そ
の機関紙は「赤い星」というのです。
グルジア戦争が勃発した2008年8月8日にクレムリンにお
いて開催された「緊急安全保障会議」の報告が8月9日の「赤い
星」に出ているのです。そこで、メドベージェフ大統領は次のよ
うにいっています。
—————————————————————————————
コーカサスにおける我が同胞の死に対して、我が国が懲罰なし
に済ませると思ったら大きな間違いである。
——メドベージェフ大統領
——副島隆彦×佐藤優著
『暴走する国家/恐慌化する世界』/日本文芸社刊
—————————————————————————————
ここで注目すべきは「コーカサス」という言葉です。「コーカ
サス」は英語読みであり、ロシア語では「カフカース」というの
です。カフカースは、黒海とカスピ海に挟まれたカフカース山脈
と、それを取り囲む低地からなる面積約44万平方メートルの地
域のことをいうのです。
カフカース山脈を南北の境界として、北カフカースと南カフカ
ース(ザカフカースという)に分かれ、北カフカースはロシア連
邦領の北カフカースに属す諸共和国、ザカフカースは旧ソ連から
独立した3共和国——アゼルバイジャン、アルメニア、グルジア
をさしているのです。
したがって、メドベージェフ大統領のいう「コーカサスの我が
同胞」というのは、この地域全体をさしています。グルジアは当
然として、アゼルバイジャンやアルメニアについてもロシアの勢
力圏であるといっているのです。
なぜ、ロシアはここでいうところのコーカサス——とくにグル
ジアにこだわるのでしょうか。
それには、カスピ海から天然ガスを運ぶパイプラインについて
理解する必要があります。カスピ海は中央アジアにある陸地に囲
まれた塩湖です。かつては裏海とも呼ばれ、中国語では現在もそ
う呼ばれています。カスピ海には海への出口はないのです。
ソ連邦が解体されるまでは、カスピ海はソ連とイランの2ヶ国
が接していたので、その権益は2国で話し合いをすればよかった
のです。とくに大きな問題はなかったのです。
しかし、ソ連邦が崩壊してしまうと、カスピ海に接している国
は次の5ヶ国になるのです。添付ファイルには、沿岸5ヶ国によ
るカスピ海の分割図があります。
—————————————————————————————
1.ロシア
2.アゼルバイジャン
3.イラン
4.カザフスタン
5.トルクメニスタン
—————————————————————————————
カスピ海には海への出口がないので、カスピ海の石油や天然ガ
スを黒海まで運び、黒海のボスポラス海峡を通ってヨーロッパや
世界市場に運び出すしかないのです。
そうなると、パイプラインをどの国を通って敷設するのかが問
題になります。ロシアとしては、カスピ海からグローズヌイ——
ロシア連邦のチェチェン共和国の首都——を経て黒海沿岸地域の
ノボロシースク港に至るパイプラインを有しているので、ロシア
産の原油だけでなく、カスピ海でとれるすべての原油がこのルー
トで運ばれるようカスピ海沿岸国に働きかけています。このパイ
プラインを「北ルート」というのです。
これに対してアゼルバイジャンは、なるべくロシア領内の通過
を避けようとして、アゼルバイジャンのバクーから黒海沿岸地域
のグルジア領のスプサ港へ向かうパイプラインを敷設しているの
です。これを「西ルート」と呼ばんでいます。
この「西ルート」は1999年に完成したのですが、ロシアを
除くカスピ海沿岸国はほとんどこのルートを使い、「北ルート」
は使われなくなってしまったのです。
さて、このカスピ海を「海」とみるか、「湖」とみるかが重要
なのです。これについては、カスピ海沿岸5ヶ国で長く法的論争
を続けているのですが、いまだに結論が出ていないのです。
ロシア、カザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタン
の4ヶ国はカスピ海を「海」とみなしており、海底資源が各国の
海岸線の長さにしたがって分配されるべきであると主張している
のです。これに対して海岸線の少ないイランだけは、カスピ海を
「湖」であるとみなし、地下資源は5ヶ国で均等に分割すべきで
あると主張しています。そして、この問題とパイプラインのルー
トが大問題なのです。 ————[大恐慌後の世界/26]
≪画像および関連情報≫
●カスピ海は「海」か「湖」か
———————————————————————————
カスピ海周辺国家間で10年に及ぶ領海確定協議が続いてい
る。カスピ海を海ととらえるか湖ととらえるかで、主に3点
が問題となる。つまり鉱物資源(石油・天然ガス)、漁業そ
して国際水域としてのアクセス。とくに黒海やバルト海へ抜
けるヴォルガ川とのリンクは内陸国であるアゼルバイジャン
トルクメニスタン、カザフスタンにとって重要である。カス
ピ海が海であれば外国船の通過を許す国際条約が有効となり
湖であればその義務がなくなる。これには環境問題も関係す
る。なお、カスピ海では旧ソ連時代の艦艇を引き継いだロシ
アの軍事プレゼンスが最も高い。 ——ウィキペディア
———————————————————————————
●図の出典/木村汎著『プーチンのエネルギー戦略』北星社刊
カスピ海と黒海を結ぶパイプライン.jpg
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 大恐慌後の世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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投稿者 sfu9xi | 返信 (0) | トラックバック (0)