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『戦場のメリー・クリスマス』   西岡昌紀 西岡昌紀

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数日前、DVDで、久し振りに『戦場のメリー・クリスマス』
(大島渚監督/1983年)を見ました。

(『戦場のメリー・クリスマス』に関するサイト)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E5%A0%B4%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%B9


http://www.amazon.co.jp/%E6%88%A6%E5%A0%B4%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%B9-DVD-%E5%A4%A7%E5%B3%B6%E6%B8%9A/dp/B0000A4HUB

この映画が完成・公開されたのは、もう25年前(1983年)
の事です。1983年と言ふ年は、私にとって、非常に感慨
の有る年でしたが、あれから25年経ったのか、と言ふ思ひ
も有って、色々な思ひが心に浮かびました。

この映画は、南アフリカの小説家サー・ヴァン・デル・ポストの
小説『影の獄舎』を原作に、大島渚監督とポール・メイヤース
バーグが脚本を書き、そして、坂本龍一が音楽を担当した、日本、
イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、の合作で、
第二次世界大戦初期のジャワ島で、日本軍の捕虜と成った連合軍
兵士と日本兵の間の葛藤と友情を描いた物語です。

この映画を見る度に、私は、この撮影が開始される際、大島渚監督
が記者会見で口にした或る発言を思ひ出します。それは、

「ジャン・ルノワールの『大いなる幻影』の様な映画を作りたい。」

と言ふ発言です。

『大いなる幻影(La Grande Illusion)』は、画家のルノワールの
息子でもあるフランスの映画監督ジャン・ルノワールが、
第一次世界大戦中、ドイツの捕虜に成った二人のフランス人を
主人公に、戦時におけるドイツ人とフランス人の友情を描いた
傑作です。(1937年公開)

(『大いなる幻影』(1937年)に関するサイト)
http://homepage2.nifty.com/cs-vision/meigakurabu%201.html

その『大いなる幻影』(1937年)の様な映画を作りたい、と
大島渚監督は、『戦場のメリー・クリスマス』の撮影を開始する
際、発言して居たのですが、永い間、私は、『戦場のメリー・
クリスマス』を見る度に大島監督のこの言葉を思ひ出して居ました。
そして、残念ながら、そこまでは到達しなかったのではないかと
思って居ましたが、数日前、DVDで久し振りにこの映画(『戦場
のメリー・クリスマス』)を見て、自分は間違って居たのかも
知れない、と思ひました。

この映画の中に、私がとても好きな場面が有ります。
それは、映画の前半で、ヨノイ大尉(坂本龍一)が、捕虜である
イギリス人将校ローレンス(トム・コンティ)と二人で、教会の
白い建物の前を歩きながら、静かに、日本の桜と雪について語り
合ふ場面です。その場面の会話を引用します。


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ヨノイ「もし、君たち(捕虜たち)全員を、我々の桜の下の集い
    に招く事が出来たら、どんなに素晴らしいだろう。」
ロー
レンス「そうですね。私の一番好きな日本の思ひ出は、雪です。
      雪に覆はれた木々の姿。」
ヨノイ「・・・あの日も、雪が降って居た。・・・」
ロー
レンス「どの日ですか?」
ヨノイ「君は知らないのか?1936年2月26日を・・・」
ロー
レンス「ああ、分かりました。あの日ですね。・・・私は、
    あの日、東京に居ました。あなたも?」
ヨノイ「いや、私は、その3か月前に満州に送られてしまっ
    て居た。私は、決起の場に居なかったのだ。」
ロー
レンス「その事を後悔して居るのですか?」
ヨノイ「・・・私の同志たちは処刑された。私は、彼らの後で
    死ぬ事が出来無かった。」
ロー
レンス「そうでしたか。つまり、あなたは、あの輝ける将校
    たちの一人だった訳ですか・・・」


Yonoi :How wonderful it would have been, if it could
have been invited all of you to a gathering
under our cherry trees.
Lawrence:Yes. My fondest memory of Japan is the snow.
Trees covered with snow.
Yonoi :It was snowing on the day.
Lawrence:What day?
Yonoi :Don't you know? February 26rh, 1936.
Lawrence:Ah, yes. I was in Tokyo on the day.You too?
Yonoi :No. I had been sent off to Manchuria 3 months
before. I was not there for the uprising.
Lawrence:You regret that?
Yonoi :My comrades were executed. I was left to die
after them.
Laerence:I see. So, you were one of the shining officers.


(訳・西岡)
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25年前に初めてこの映画を見た時から、私は、この会話に
感嘆して来ました。白い教会の建物の前をゆっくり歩く二人が、
日本の桜について語り、それから、日本の雪について語り合ふ。
そして、その雪についての会話から、2・26事件の話へと
進むこの場面の会話の深さに、私は、感嘆せずに居られません
でした。そして、脚本を書く過程で、この会話を書いたのは、
脚本を担当した大島渚監督とポール・マイヤースバーグ氏の
どちらだったのだろうか?と25年間考え続けて来ましたが、
どうも、大島監督ではない様な気がします。この会話に込め
られた日本への深い思ひは、日本人よりも、むしろ、外国人
の物である様に思へるからです。今回も、DVDでこの場面を
見ながら、この場面の深さに打たれた事は、言ふまでも有りま
せん。そして、この場面における坂本龍一氏の音楽の素晴らし
さは、言葉で表現出来る物ではありません。


それから、余り知られて居ない事ですが、映画の前半で、
オランダ人捕虜への性的虐待を理由に、切腹を命じられる
朝鮮人軍属を演じたジョニー・大倉氏は、自身が、在日
朝鮮人です。そして、ジョニー・大倉氏は、この映画に
出演して、この朝鮮人軍属(金本)を演じる際に、氏が、
自身の在日としての生い立ちについて語って居るのを
読んだ事が有ります。朝鮮人であるこの軍属に切腹を
強要する事で、彼を「日本人」にする、と言ふ所に、
「朝鮮」にこだわり続けて来た大島渚監督の視点が
有るなと、公開当時思った事を良く覚えて居ます。−−
この映画を朝鮮」と 言ふ視点からこの映画を見る事も、
興味深い事だと思ひます。


しかし、何と言っても、この映画をこれほどの傑作に
したのは、ハラ軍曹を演じたビートたけし(北野武)で
しょう。今回、この映画を見直して印象的だった事は、
ビートたけしが、見事に「戦前」の日本人を演じて居る
事です。あのラスト・シーンでも、私は、その事を強く
感じました。その意味で、大島渚監督は、もしかする
と、「『大いなる幻影』の様な映画」ではなく、
「『灰とダイヤモンド』の様な映画」を作ってしまった
のだろうか?などと言ふ気がします。

「戦犯」として処刑される前の夜、独房でローレンスに
再開したハラ軍曹が、ローレンスに「メリー・クリスマス、
メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス!」と大きな
声で画面に向かって叫ぶ場面に、私は、戦前の日本人が、
私たちに向って「メリー・クリスマス」と言って居る様な
錯覚を覚えました。

その意味で、大島渚監督は、もしかすると、
「『大いなる幻影』の様な映画」ではなく、
「『灰とダイヤモンド』の様な映画」を作ってしまった
のかも知れません。

政治的には「左翼」の代表と見なされて来た大島渚監督の
この作品から、そんな事が感じられてしまふ所が、映画と
言ふ物の凄さなのでしょうか。

核時代63年12月23日(火)

7人の「A級戦犯」の50回目の命日
(=天皇誕生日)に

                 西岡昌紀

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