Bloomberg.co.jp: 特集記事/コラム【コラム】オバマ氏は最初で最後の「黒人」大統領 |
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【コラム】オバマ氏は最初で最後の「黒人」大統領−D・ケネディ
11月5日(ブルームバーグ):バラク・オバマ氏はまさに歴史を塗り替 えたが、その背後には幾つかの重要な歴史がある
オバマ氏が「変革」の担い手として称賛されるとき、また人種問題が話 題に上るとき、同氏は既に起きていた幾つかの重要な変化の恩恵を受けている。 同氏が大統領に選ばれたことは、画期的な出来事ではあるが、同時に既に起こ っていた流れが最高潮に達したことも意味する。
ブッシュ政権の失政が、オバマ氏勝利を説明する直接の理由とされてい る。しかし、現在の米国社会で見られる多くのことがそうであるように、オバ マ氏のホワイトハウスへの道も、第2次世界大戦当時に起源をさかのぼる。
より具体的に言えば、1941年6月18日の大統領執務室での緊迫した会 談が挙げられる。黒人のみで構成する寝台車ポーター組合の当時の指導者だっ たフィリップ・ランドルフ氏は、黒人にも軍需工場での平等な雇用機会を与え るよう要求し、10万人規模のデモ行進をワシントンで実行すると当時のルー ズベルト大統領に冷ややかに通告した。ルーズベルト氏は、米国大統領の政策 というものは頭に銃を突き付けられて指図されるべきものではないと返答し、 「デモ行進は中止しろ。再度話し合おう」と素っ気なく語った。ランドルフ氏 はまばたきすらしなかったという。
その1週間後、ルーズベルト大統領は折れ、軍需産業で「人種や信条、 肌の色、国籍」に基づく差別を禁じる大統領令8802号を発令した。
両者の会談は公民権運動の幕開けを告げる転機となった。ランドルフ氏 は、以前の黒人教育者ブッカー・T・ワシントン氏のような敬意を払った陳情 という形態を頭から否定していた。デモに訴えるというランドルフ氏の脅しは、 後に黒人のマーチン・ルーサー・キング牧師が完成させる戦術の方向性を示し ていた。ランドルフ氏の要求はまた、アフリカ系米国人をめぐる政策課題の広 がりを示唆した。
人種差別撤廃に向けた道のりで、大統領命令8802号は奴隷解放宣言に匹 敵する節目だった。渋々だったとはいえ、それは運命的に民主党の大統領によ って発令された。
人種的平等の推進者としての民主党の歴史は皮肉に富んでいる。奴隷解 放宣言を行ったのは結局、共和党のリンカーン大統領だった。48年には大統 領命令8802号が予兆していた影響が明らかになり始める。その前年、トルー マン政権は公民権保護に向けた報告書(「To Secure These Rights」)を公 表した。
リンカーンの政党
南部における人種問題は、人種的平等という理念と結び付いた政党から 少なくとも地域の一部を離反させ、地域全体を揺るがしかねない。ジョンソン 大統領はその冷徹な論理を理解し、「64年公民権法」に署名した際、「民主 党は南部を永遠に失った」と語った。
こうした背景を考えれば、リンカーン大統領が所属した共和党から初の 黒人大統領が誕生しないことに不思議はない。共和党がこれまで公民権問題に 積極的に取り組んでこなかったことや、アフリカ系米国人の機会均等に道を開 かない姿勢から、オバマ氏が共和党大統領候補の指名を争い、まして勝利する ことなど想像するのは不可能だ。
ケネディ大統領との比較
オバマ氏の勝利を、J・F・ケネディ大統領のケースと比べることは有 益だ。ケネディ大統領の誕生もルーズベルト時代に起源を持つ政策の遺産と言 える。1921−33年の連邦判事の空席207のうち、ルーズベルト大統領よりも 前の3人の共和党出身の大統領が任命したカトリック教徒は8人にすぎなかっ た。ルーズベルト大統領はその後8年間で197人の連邦判事を任命したが、 うち52人がカトリック教徒だった。
米国のカトリック教徒は長らく社会の片隅に追いやられた存在であると 感じ、「アイルランド人お断り」という求人広告で就労を拒否された時代の苦 い記憶を持っている。ケネディ大統領の誕生が米国のカトリック社会にもたら した心理的効果は変化を引き起こす力のあるものだった。今回のオバマ氏の勝 利がアフリカ系米国人らの間にそれに匹敵する変化をもたらすと考えるのは理 にかなっている。
最後の「黒人」大統領
ケネディ大統領はカトリック信者で初めて大統領となった。信じる教義 によって政治的パーソナリティーを分類した場合、ケネディ氏は最後のカトリ ック教徒の大統領でもある。今となってみれば、例えば2004年大統領選の民 主党候補ジョン・ケリー上院議員(マサチューセッツ州)がカトリック信者だ ったことで、どんな政治的重みが生じただろうか。
同じようにオバマ氏も最初の「黒人」大統領であり、最後の黒人大統領 だったということになるだろう。オバマ氏の勝利によって、われわれは米国の 歴史上の重要な一線を越えた。1941年の時点では遠い将来の地平に輝いてい た一線であり、われわれはこれを2度と再び越えることはできない。
オバマ氏は歴史を塗り替え、そしてこれから歴史を創ろうとしている。 米国民の人種に対する感性はカトリックをめぐる旧世代の懸念がたどったのと 同様の道を進んでおり、米国人のアイデンティティーや社会の一員という言葉 の意味を定義し直し、すべての男女が平等である国家を実現する建国の約束を ようやく成就させつつあると信じてもいいのだろう。 (デービッド・M・ケネディ)
(デービッド・M・ケネディ氏はスタンフォード大学の歴史学教授でピ ュリツァー賞受賞者。このコラムの内容は同氏自身の見解です)
更新日時 : 2008/11/06 17:06 JST
投稿者 sfu9xi | 返信 (0) | トラックバック (0)