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金融危機対策の主導権奪取を狙う英国

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10月10日、米ワシントンDCで開かれたG7の金融会議では「金融市場の凍結状態を解除するため、あらゆる必要な手段をとる」との宣言が出され、今回の金融対策が失敗したら大変なことになるという各国政府の危機感は感じられたものの、具体的な内容に欠けていた。欧米の何人もの分析者が、G7会議の結果に対し、不十分だと批判している。(関連記事その1、その2、その3)

 とはいえ、このG7会議を機に、金融危機対策の世界的な中心を、米ブッシュ政権から、英ブラウン政権へと移転させようとする新たな動きが起こっている。米政府で金融危機対策を主導するポールソン財務長官は、危機を脱する対策と称し、7千億ドルの公金を使って米金融機関の不良債権を買い上げる計画を進めているが、このやり方で危機が脱却できると考えられる根拠は全くなく、ポールソン自身も、その根拠について全く説明していない、との批判が噴出している。(関連記事)

 金融危機を脱するには、不良債権の買い上げではなく、政府が金融機関に資本金を注入してテコ入れし、金融機関の健全性を回復することで金融界の相互不信を取り除き、ここ2週間ほど完全に凍結状態になっている金融機関間の融資市場を蘇生させる方策の方がはるかに効き目があると指摘されている。金融機関への資本注入を国際的に開始しようと呼びかけるブラウン首相の英政府の方が、効果に疑問がある不良債権買い上げに固執する米政府よりずっとましだ、と主張する論評が、英マスコミなどに載り始め、英が米から主導権を奪取する画策が、マスコミを使ったプロパガンダ戦略とともに開始されている。(関連記事)

 10月13日付けのFT紙の記事には、大海の渦巻の中で、米ブッシュ大統領と共和党マケイン候補がおぼれかけている半面、英ブラウン首相と米民主党オバマ候補は岩の上に乗って難を逃れているイラストが併用されている。自滅主義のブッシュとマケインはもうダメで、これからはブラウンとオバマによる米英中心主義の復活なのだ、ブラウンは救世主だ、と示唆したいのだろう。(関連記事)

 ポールソンらブッシュ政権の中枢は、対策を後手後手に回らせたり、微妙だが決定的に間違った対策を打ったりして、意図的に米金融界を崩壊に向かわせている「隠れ多極主義者」の疑いがある。これを放置すると、第二次大戦以来60年続いてきた米英中心の世界体制が崩壊し、世界の覇権構造が多極化してしまう。それを防ぎ、従来どおりの米英中心の世界体制を復活維持するため、10月10日のG7会議を機に、英政府がEU(独仏)や日本を巻き込んで、国際金融対策の主導権を米から英に移す試みが行われているのだろう。米金融界の中にも、崩壊を望まない人々は多いから、英の主導権奪取の試みは、米側でも歓迎されている。(関連記事)

 今回と似たようなことは1971年、米ニクソン政権が前政権から引き継いだベトナムの戦費など財政の大盤振る舞いを加速させた挙げ句、ドルの信用失墜を誘発して71年8月に金ドル交換停止(ニクソンショック)を挙行し、ドルの国際通貨体制を破綻させた後の展開としても起きている。ブッシュと同様、隠れ多極主義だった米ニクソン政権は、ドルの崩壊に対して意図的に無策を貫き、米政府に対策を要求する英など欧日政府に対し、米高官は「ドルはわれわれの通貨だが、君たち(英欧日)の問題だ」とうそぶいた。

 これに対して英政府は、独仏日などを率いて国際金融会議(71年12月のスミソニアン会議など)を開き、米以外の欧日先進諸国が為替市場への非公然の協調介入によってドルを買い支え、米政府が望んでいないドルの救済を挙行した。ニクソンの次の共和党政権となった80年代のレーガン政権も、自滅的な財政急拡大をやってドルは破綻に瀕し、85年のプラザ合意によって、日独が為替を切り上げる救済策が繰り返された。(米政府は、表向きはこれらを歓迎したが、本音はそうではなかったと私は考えている)。(関連記事)

▼薄商いの中で株価つり上げ

 今回のG7会議では、おそらく米の横やりによって、内容の薄い共同声明しか出すことが許されなかったのだろうが、同時期にEUでは英独仏が、公的資金を投入して自国の銀行の資本を強化する新施策を相次いで発表した。またデンマーク政府は、国内銀行間の融資に政府保証をつけることで、銀行間融資市場の信頼回復と蘇生を図る政策を、議会の承認を受けて開始し、他のEU諸国も同様の政策を検討している。これらの、米ポールソンの施策に比べてかなりまともな政策を英主導でEUがやり出したことが好感され、週明け10月13日のEU各国の株式市場は急上昇した。(関連記事)

 10月13日は、米国は休日(コロンブスの米大陸発見記念日)で、株式市場は開いていたものの、銀行など金融機関はみんな休みで、大口の株式投資が少なかった。そこに、ごく一部の大手機関投資家が後場に大量の買いをいれ、株価を上昇させた。薄商いの中、ダウ平均株価は史上最高の11%の値上がりを見せた。この急上昇を受け、対米従属傾向が非常に強い東京の株価も、週明け14日に高騰した。(関連記事)

 英米中心の世界体制を維持しようとする今回のプロパガンダ戦略は広範囲にわたっている。たとえば10月13日には、今年のノーベル経済学賞が、プリンストン大学のポール・クルーグマン教授に与えられたが、授賞の対象となったのは30年近く前に書かれた論文だった。ノーベル賞(特に平和賞)は、以前から英国(英米中心主義)の世界戦略に合致するかたちで賞が出されることが多く、英国による世界の人々に対する「善悪観操作」の戦略の道具の一つである。

 クルーグマンは、ニューヨークタイムスで辛口の論評を書き続けている。彼は、昨夏の金融危機発生後、危機が深刻化すると早くから警鐘を鳴らす主張を展開し、危機は間もなく終わるという予測ばかり流していた米政府や金融機関の分析のインチキさを喝破していた。(関連記事その1、その2)

 しかし彼は最近、自分の発言によって金融危機の悪化に拍車をかけないようにするためなのか、慎重な言い回しをするようになったと感じられていた。そして今回、ノーベル賞をもらうと同時に、米ポールソンの危機対策は無茶苦茶だが、英ブラウン首相の危機対策は評価できるという、ノーベル賞の黒幕である英国に対する迎合感のある論評を出した。この分析はクルーグマンの本心なのかもしれないが、私には、英に対する返礼のようにも見える。今後、彼の論調がどうなるか注目したい。(関連記事)

▼英主導の金融蘇生はあり得る?

 金融市場にとって、市場参加者の心理状況は非常に大事だ。ウソでも投資家を信じさせられれば、後でばれない限り、事実と同様に相場の上昇を引き起こせる。上質のプロパガンダは、金融に効果がある。英が米から国際的な金融危機対策の主導権を奪取して、米政府による自滅策を止め、プロパガンダを使って世界の投資家に「危機は終わりつつある」と信じ込ませれば、金融危機は脱出に向かうかもしれない。

 70年代にニクソン政権が発した自滅策が英主導の国際救済によって阻止され、米英覇権が維持されたように、歴史は繰り返し、今回のブッシュ政権による自滅策も、英主導の救済策で阻止され、世界は金融危機から脱していくシナリオがあり得る。

 だが、そのようなシナリオは、あり得るものの、金融全体の状況を見ると、可能性としては低いと感じられる。今回の金融危機の本質は、米住宅バブルの崩壊を機に、米国の金融界全体の半分を占めていた10兆ドル規模のレバレッジ金融(影の金融システム)が崩壊して何分の1かの規模に収縮することである。レバレッジ金融を発明・拡大させていた米投資銀行は、すでに5行とも倒産または廃業決定(商業銀行への転換)しており、レバレッジ金融界が元のような規模に戻ることはあり得ない。米金融界が約半分の規模に大収縮することは、すでに決まったことであり、あとはどのように収縮が進行するかという話でしかない。(関連記事)

 この金融大収縮は、10年かけてやるなら、なだらかな収縮となり、米経済は、日本の90年代のような「失われた10年」を経験した後、平常に戻る機会を得る。だが逆に、この1年間のように、米政府の対策の(意図的な)大失敗によって、金融大収縮が激動とともに行われる状態が続くと、秩序だった収縮に失敗し、金融崩壊が起こり、ドルの基軸通貨性の喪失や米国債の債務不履行などに波及しかねず、世界的な大惨事となる。(関連記事)

 米金融界の規模が半分になるのだから、市場に入る資金は減り、株価は下がるのが自然だ。株価が1日に10%以上上がったから、金融危機は終わりつつあると考えるのは、今回の金融危機の本質を理解していない。おそらく、株価の上昇は長続きせず、乱高下しつつ下落する一環として、一時的に上がっただけである。

 今回の英主導の危機対策開始の効果がどの程度のものかを決定づけるのは、株ではなく、銀行間の金融市場である。先週、米欧の銀行間の金融市場は完全に崩壊・凍結して、全く貸し借りがなくなり、銀行間の金融市場の金利(LIBOR)は史上最高となった。この状態が何日か続くと、資金繰りに行き詰まって破綻する企業や金融機関が続出すると予測される事態となった。その最中にG7会議が開かれ、英が米からの主導権剥奪を模索し、EU各国は、銀行間金融市場を復活させるべく、銀行への公金投入や債務保証の開始を決めた。今後LIBORが下がれば、これらの対策の効果が上がり、市場が蘇生していることを意味するが、今のところ、ほとんど下がっていない。対策の効果はまだ不明だ。(関連記事)

 EU諸国が、銀行間融資に政府の保証をつけたりして、金融システムの要である銀行間金融市場の蘇生を模索しているのに対し、米政府は、銀行間市場の凍結によって資金難に陥っている米の一般企業に連銀が資金を直接に融資するという対策をとっている。(関連記事)

 これは、資金難の企業に資金を流して不況を防ぐ点では欧州と同じだが、銀行間市場の蘇生には全くつながらず、逆に、当局だけが融資の貸し手である危機的現状を固定化してしまう自滅策である。世界の金融の中心であり、危機発生の中心でもある米の当局が、この手の自滅策を変えない限り、英主導で外野からあれこれ救済策をやっても、問題は解決されない。米側では、自滅策のポールソンが、議会からの承認も得て、不起訴特権までついた金融救済策の全権を握っている。

▼三菱モルガン株購入の政治劇

 今回の英主導の米英中心体制蘇生策には、日本もいろいろと協力している。その一つは、おそらく日本政府の要請に基づき、三菱UFJグループが、潰れそうな米投資銀行であるモルガンスタンレーに90億ドルの金をつぎ込んで救済したことである。三菱は10月13日、一株あたり25ドルを払ってモルガンの株の21%を買ったが、モルガン株の先週の最安値は7ドルまで下がっていた(13日の株価は15ドル)。来週まで待てば、モルガン株はまた下がるかもしれないのに、三菱は、安値の4倍近い価格を、平然と、しかも予定より1日前倒しして13日に払い込んだ。(関連記事)

 三菱は、購入するモルガン株の優先株と普通株の割合を変えたりして、自行が負うリスクの軽減を試みた観があるが、一株あたりの価格は明らかに高すぎる。三菱の経営陣は間抜けではないだろうから、政治的な裏があるはずだ。日本政府が頼むとしたら、その相手が国内最大手の三菱になるのは自然だ。対米従属を持続したい日本政府は、金融崩壊で米国の覇権が失われ、日米安保体制が失われるのが怖いはずだ。リーマンに続いてモルガンも潰れたら、CDSなどデリバティブも絡んで、米金融界全体に巨額の損失が上乗せされて金融崩壊に近づき、米覇権の喪失の懸念が増す。モルガン崩壊を防ぐため、日本政府は三菱に金を出させたのだろう。

 三菱が一株7ドルで90億ドル分買うと、モルガン株の6割以上が買えて、モルガンは三菱のものになる。しかしモルガン側は、資金はほしいが主導権は日本人に渡したくなかった。その一方で日本政府は、自滅的ポールソンがモルガンを潰し、米覇権を崩壊させていくのを傍観したくなかった。そこで、割高な値段で三菱がモルガン株を買うという茶番劇になったのだろう。

 今後、金融危機が深化していくと、近いうちにモルガンは再び危機的状態に陥る。三菱が入れた金ではモルガンは救いきれない。ひょっとすると、いずれモルガンは潰れ、三菱は巨額の損失を被る。米政府は銀行への資本注入策を始めれば、モルガンはその対象となり、救済されるかもしれないが、その場合、米政府が注入する資本金によってモルガンの一株あたりの利益が落ち、三菱の利得は減る。米政府は、三菱がその手の損しないよう配慮すると確約したが、そもそも歴史的役割をすでに終えた投資銀行を米政府が救済するのかどうかも不透明だ。三菱のモルガン株購入は、非常にリスクの高い賭けになっており、その分、日本政府は三菱に恩義を負ったことになる。(関連記事)

 このほか、日本政府は先週末のG7会議に際し、日本の外貨準備を金融危機の解消のための(対米?)救済金の一部として使いたいと申し出たりして、対米従属維持のため、日本人の税金や預金を米国救済のために浪費しようとする姿勢を強めた。しかし、米政府は日本の申し出を断った。その断り方が、また隠れ多極主義的で興味深い。日本政府高官がワシントンのG7会議に赴き「日本の金で米を救いたい」と申し出たとたん、米政府は、日本に相談せずに北朝鮮をテロ支援国家リストから解除する挙に出た。日本側は、日本に相談なしに挙行されたと、怒りの表明をした。米政府の奇行のおかげで、日本政府が国民の金を米金融危機のどぶに投げ込んで浪費する事態は回避された。(関連記事)

 米政府は、中国に米国債を買い増ししてもらう必要が急拡大する中で、7年間凍結してきた台湾への兵器売却を突然に決め、中国政府を不必要に激怒させるなど、日本に対してやったのと同種の自滅的な行動を、中国に対してもやっている。(関連記事)

▼深化する経済危機

 そんなドタバタが続く中、金融危機の被害は着実に拡大している。欧州では、金融危機の影響で、エストニア、ラトビア、リトアニア、ウクライナ、ハンガリー、ルーマニアといった東欧諸国が、住宅バブル崩壊、金利上昇、通貨下落、インフレ激化、貸し渋り、不況突入などの経済危機に瀕している。トルコやカザフスタン、パキスタン、アルゼンチンなども危ない。国債のCDS(債券保険)相場は、パキスタンの国債が債務不履行になる確率が90%であることを示している。パキスタンの財政破綻は、タリバンなど反米イスラム過激派の拡大に拍車をかけ、NATOの敗北につながる。(関連記事その1、その2)

 米国内では、カリフォルニア州やフロリダ州などの地方政府が、財政破綻に瀕している。米では失業率が上がっているが、全米の10州で、来年にかけて失業保険基金が破綻すると予測されている。GMやフォードの倒産の危機が拡大しており、GMが破綻すると1兆ドルの債務が不履行となり、CDSを通じた損失拡大がまた金融界に波及する。(関連記事その1、その2、その3)

 米経済は不況の色彩を強め、米連銀が10月末までに再利下げする可能性は84%に上がっている。利下げするほど、ドルが持つ魅力は減り、潜在的なドルの信用不安が拡大する。米経済の現状を見ると、株価の上昇は全く現実離れした(おそらく政治的な操作の結果の)事態だと感じられる。(関連記事)

 世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は、G7金融会議が開かれる3日前の10月6日「G7は、もはや機能しうる組織ではない。先進国だけで集まってもダメだ。中国、ロシア、インド、ブラジル(BRIC)、南アフリカ、サウジアラビアを入れた新組織で議論しないと意味がない」と、G7の存在意義そのものを否定する発言をしている。ゼーリックは世銀総裁になる前、ブッシュ政権で国務副長官として、中国を「責任ある大国」にするための覇権押しつけ戦略を展開した人で、これはブッシュ政権の多極化戦略の一環だった。(関連記事)

 世界銀行は、歴代総裁が全員、米国人であるが、今回、BRICなど途上国側からの突き上げを受け、次から世銀総裁選では国籍に関係なく立候補を受けることが決まった(この改革には英も深く関与しているので、英の謀略によって中途半端に終わるかもしれない)。英国はG7を使って英主導で金融危機の対策を展開したいが、米の側ではそれを阻止するかのように、ゼーリックがG7の無効を宣言し、BRICの台頭を容認し、多極的な新世界秩序を作ろうとしている。(関連記事)


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