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操作される金相場

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世界中で、金貨や金銀地金の需要が急増し、金貨などの鋳造停止や品切れ状態が起きている。ドイツでは10月前半に、金を買いたい人々が急増し、金の需要は10倍になった。金貨や金塊を買おうと申し込んでも、1カ月以上待たされる状態になった。米国でも、金貨や銀、プラチナの需要が旺盛で、米造幣局は金地金の調達ができず、10月中旬に何種類かの金貨の鋳造を停止した。南アフリカのクルーガーランド金貨も、8月に品切れ状態となった。カナダでも鋳造停止が起きている。(関連記事その1、その2)

 金銀プラチナの需要が高騰しているのは、米国発の世界的な金融危機や、米財政赤字の急増、不況対策としての各国の連続的な利下げによって、ドルなど世界の主要通貨に対する世界の人々の信頼が落ちたからである。ドルは最近、円以外の主要通貨に対して値が高く、強い状態にある。だが未曾有の危機を受け、世界の人々の中には、心理的にドルを信用せず、金銀の地金を持っていた方が安心だと感じる人が増えている。

 これほど金地金が売れているなら当然、金相場が上昇するのが自然だ。ところが、国際金相場は逆に下がっている。ニューヨークの金相場(COMEX)は今年3月、投資銀行ベアースターンズが崩壊したときに最高値の1オンス1032ドルをつけたが、その後は下落傾向をたどり、一時は700ドル以下まで落ちている。特にこの1カ月ほどは、金地金の需要が世界的に増えれば増えるほど、金相場が下がる感じだ。一体、何が起きているのか。

▼金の空売りを奨励する米連銀

 COMEX金相場では、金地金の需要増に合わせて金を買う投資家もいるが、それ以上に、金を空売りして儲けている金融機関の動きが強い。実需より空売りが強いので、相場が下がっている。

 米国では、連銀(FRB)が中心となって、金融機関に相対取引で金地金を貸し出す仕組みがある。金地金の貸出金利は、最近まで1%以下の低さだった。米の銀行やその傘下のヘッジファンドが、この仕組みを使って金地金を借り、借りた金地金をCOMEXなどで売ってドルに替え、そのドルを使って利回りの高い投資を行う「金キャリー取引」をさかんに行った。(関連記事)

 表向き、米連銀から金地金を借りている人々の多くは、金鉱山や宝飾店で、目的は金相場の変動をヘッジするためとされている。しかし、このほかに非公開の動きがある。今年3月にGATA(Gold Anti-Trust Action Committee)という団体が発表したところによると、連銀は金相場の上昇を抑制してドルを防衛する目的で、非公式に米銀行に対して大量の金地金を貸し出している。連銀が保有する総量3万トンの金地金のうち、半分以上が貸し出しされた状態になっている。(関連記事)

 GATAは、連銀が金地金を秘密裏に貸し出して銀行に空売りさせることが全く行われなかった場合、金相場は1オンス3千ドルから5千ドルの水準になると分析している。金が高騰すると、ドルから金への資金流出が起きて、ドルの信用が崩壊しかねない。連銀による金地金の貸出は、金相場の上昇を抑え、ドル崩壊を防いでいる。

 連銀の貸出金利は昨年から下がりつつあるが、つい最近まで2%とか3%の状態が続いてきた。それに対して金地金の貸出金利(リースレート)は、最近まで1%以下(1カ月の貸出で年利0・25%)で、金相場が上昇していなければ、銀行は金キャリー取引をやるほど利ざやで儲けられる。

 昨夏以来の金融危機で、米英の銀行間や企業間では、相対取引であるがゆえに構造的に不透明なデリバティブの含み損が懸念され、銀行は相互不信に陥り、金融システムの中枢をなす銀行間融資市場の凍結が続き、銀行から企業への貸し渋りもひどくなった。連銀にとって、銀行間や銀行から企業への融資の増加を誘発することと、銀行の利益を確保して銀行倒産を防ぐことが重要になった。金地金を低利で貸し出し、銀行の金回りを良くすることは、連銀の政策に合致している。

 今年3月までの金相場の上昇局面でさえ、連銀が保有する金地金の半分以上が貸し出されていたのだから、その後の金相場の下落局面では、連銀がひそかに奨励する銀行の金キャリー取引が拡大して当然だ。金キャリー取引が増えるほど、金相場は空売りによって下がり、さらなる金キャリー取引が誘発されている。

 ここ1カ月ほど、金地金の実需の急増を受けて、金地金の貸出金利が急騰し、それまで1%以下だったものが3%近くまで上昇した。しかし、銀行間融資の金利(LIBOR)は5%前後である。今でも、3%の金利で金地金を借りて金市場で空売りしてドルに替え、銀行間融資に回せば5%の利回りを得られる。金キャリー取引はまだ儲かっており、空売りによって金相場は下がり続けている。(関連記事)

▼金キャリーの終焉でドル崩壊?

 金相場が下がっている限り、世界の資金は金地金の方に向かわず、ドル崩壊の引き金を引きかねない金高騰は防がれている。とはいえ、連銀が奨励する金キャリー取引がいつまで続くか、大きな懸念が存在する。懸念の一つは、世界的な不況突入で、米欧を中心に政策金利の引き下げが続いていることだ。利下げは、投資利回りの全般的な低下につながり、金キャリー取引の利ざやを縮小させる。

 連銀は、銀行間の相互不信によって凍結されている銀行間融資を何とか復活させたい(さもないと、いつまでも連銀や各国の中央銀行だけが唯一の資金提供者である苦境が続く)。だが銀行間融資が復活してLIBORが下がると、そのとたんに金キャリー取引の利ざやがマイナスになり、空売りが減って金相場が急騰してしまう。米当局は、ジレンマに陥っている。金融分析者の中には、何らかの引き金によって金相場が上昇し始めると、すぐに相場は2倍に(今の750ドルから1500ドルへ)はね上がると予測する人もいる。(関連記事)

 9月には、COMEX金市場が、先物取引の証拠金比率を47%も値上げし、資金力のない小口投資家を締め出し、金相場の上昇を抑制した。3月には、欧米の中央銀行が結託して金のスワップ取引を拡大し、金相場の下落傾向の流れを作った。これらの抑制策と、連銀が金キャリー取引の奨励によって相場下落の圧力を発生させていることを合わせ、米当局は何とか金相場の高騰を食い止めて、ドルの価値を延命させようとしている。しかし、この延命策がいつまで続くのか、しだいに怪しい状態になっている。(関連記事その1、その2)

 10月中旬には「数日後には金相場の急騰が起きるかもしれない」という予測記事を書いた分析者がいたが、その予測は外れた。10月下旬には、同様の金相場急騰の筋書きで「ドルは30日以内に崩壊する」という予測が出ている。また外れるのか、今度は当たるのか。(関連記事その1、その2)

 金もドルも、当局による延命策で生き延びている状態になっていることは確かだ。しかし、いつ崩壊するのか、次々と新たな延命策が出てきて意外に持つのか、ドル以外の通貨や欧米に対抗しうるBRIC経済が先に崩壊して結局ドルは生き残るのか、先行きは不透明だ。

 ここからは、私のいつもの政治謀略分析なので、謀略論が嫌いな人は、ここで読むのを終わりにした方が良い。

 ドルが崩壊したら世界の覇権構造は多極化するだろう。米国内の「隠れ多極主義者」が崩壊を誘発しているというのが、私の以前からの推論だ。金相場の空売りとの関係でいうと、NYのCOMEXを、実体のある金地金の先物相場から、金のふりをした紙の証券の相場に変身させたのは、JPモルガン・チェースが開発を主導した証券化商品のせいだとされている。JPモルガン・チェースは、昨年の崩壊までの数年間、金融デリバティブの中心となっているCDS(破綻債務保証)の商品化を最も積極的に進めた金融機関としても知られている。(関連記事)

 JPモルガン・チェースは、JPモルガンと、ロックフェラー家のチェース・マンハッタン銀行などが合併してできたものだ。JPモルガンは、第二次大戦前にニューヨークで最も強い資本家で、隠れ多極主義の総本山的シンクタンクであるCFR(外交問題評議会)の設立と運営を主導した。そして第二次大戦後、CFRの主導権はロックフェラー家に委譲され、ニクソン・キッシンジャー以来の共和党の多極主義は、彼らによって企画されている。(関連記事)

 ここ数年、ロックフェラーとモルガンの合体銀行であるJPモルガン・チェースが、CDSや金相場の証券化を急ピッチで進め、その結果として金融界や金相場のバブルが急拡大し、崩壊時の被害がより大きくなる状態になった。今後、金高騰、ドル崩壊が起きるのだとしたら、それはJPモルガン・チェースが多極主義者として仕掛けた崩壊のシナリオであると考えられるかもしれない。


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